リトミック教育 トットちゃんの学校「トモエ学園」の教育思想が今に伝えること

俳優の黒柳徹子さんが戦時期に学んだ「トモエ学園」(閉園、東京都目黒区)の校長を務め、音楽を取り入れた教育法「リトミック」の普及に貢献した幼児教育研究者、小林宗作(1893~1963年)先生をご存知ですか。リトミック教育が子どもの可能性を引き出す教育方法であることを提唱した方です。そのリトミック教育法が今また話題になっています。リトミックとはどんな教育方法であり、その大切さとは何かをお話ししたいと思います。

トモエ学園の精神に深く共感を受けています。
リトミックを取り入れた「トモエ学園」とは
「トモエ学園」は、1920年代から1940年代にかけて存在した日本の私立幼稚園で、作家で教育者の小林宗作先生とその妻、小林かつ子によって東京で設立されました。この学園は、通常の学校とは異なり、幼児教育の中に自由で独創的な学びを取り入れた先駆的な施設として知られています。特に、子どもたちの個性や自主性を大切にし、音楽やリズム、自然とのふれあいを通じて豊かな感性を育むことに重きを置きました。
リトミックとトモエ学園
「リトミック」とは、スイスの音楽教育者エミール・ジャック=ダルクローズが開発した教育法で、音楽とリズムの体験を通して子どもたちの感性や運動能力を育てる方法です。トモエ学園ではこのリトミックを取り入れ、音楽やダンス、リズムに合わせて身体を動かす活動を通して、子どもたちの表現力や協調性を養う取り組みが行われました。
特徴と教育理念
教室での形式的な授業よりも、自然の中での活動や、絵画、音楽、演劇などを通じて、子どもたちが自ら考え、感じる力を育てました。また、子ども一人ひとりの個性を尊重し、無理に画一的なルールを押し付けることなく、その子の興味や才能を伸ばす教育が行われたり、リズムに合わせて身体を動かすリトミックの活動を取り入れることで、子どもたちの集中力や協調性を育て、学びを自然に深めるための手法としました。


黒柳徹子さんと「窓ぎわのトットちゃん」
「トモエ学園」は、タレントでエッセイストの黒柳徹子さんが幼少期に通った学校としても有名です。彼女の自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』では、当時のトモエ学園でのユニークな教育の様子や、個性豊かな学びの場であったことが描かれています。この本は、日本だけでなく海外でも高く評価され、自由で開かれた教育の在り方を示す一例として多くの読者に愛されています。
現代における意義
トモエ学園の教育は、現代の教育においても多くの示唆を与えています。子どもたちの自主性や創造力を尊重し、音楽や体験活動を通じて学ぶリトミック教育は、現在も多くの幼稚園や保育施設で取り入れられています。
リトミックのメリット
リトミックにはたくさんのメリットがあります。現役のリトミック講師の立場から見ても、子供たちに多くの効果、メリットを感じます。実際の子供の様子を踏まえて詳しくお話しします。
早期の音楽教育
開始時期の早さでもわかるように、0歳からできる音楽教育法です。耳の発達が目覚ましい0歳から6歳までに楽しく音楽教育を受けることが出来ます。


調和、自発性、表現の成長
グループで行うリトミックは、お子さんの初めての他者との関わりの場になるかもしれません。他者を意識したり、自発的に動きたくなるなど、表現の成長が大きいです。
リズム感、聴き取りの向上
リトミックでは音楽を全身で捉えるので、リズムが体の芯に入ります。人間は体の芯で覚えたことを末端(手指、足指)に伝えることは容易でも、末端で覚えることは習得するまでに時間がかかると言われています。つまり、幼い頃に体の芯に入ったリズム感は今後に生かされます。また、耳の発達がピークを迎える乳幼児期に音楽を聴き取ることで、聴ける耳になります。
ニュアンスを感じる能力が格段に上がる
音楽は、目に見えません、しかしそこに音楽のパワーを感じ学習するリトミック。子供たちは、耳で聴き見えないものを感じようとする課題をこなします。これは、細かなニュアンスを感じるという高度な作業です。乳幼児期のリトミックは子供達の興味や想像力を広げられるような楽しいアイディアがいっぱいです。楽しみながらニュアンスを感じる、人間ならではの能力を伸ばします。
自己肯定感の向上、スキンシップによる安心感を味わえる
乳幼児期のリトミックは保護者の方と一緒に行います。したがって、親子のスキンップの時間になります。また、リトミックレッスンの評価は、できた、できない、ではありません。「どんなふうに感じた」が重要で、それは個々のお子さんを認めることにつながります。
「トモエ学園」が目指したもの
「トモエ学園」が目指したのは、子どもたちが自然体で学び、自らの個性を自由に伸ばせる教育環境の提供です。これは、従来の規律や知識詰め込み型の教育ではなく、子ども一人ひとりの感性や主体性を尊重することに重きを置いたものでした。小林宗作先生が目指した教育の本質は、次のような理念に基づいていました。
自由でのびのびとした学びの環境
トモエ学園では、子どもたちに「自由に考える場」としての教育を提供し、決まったカリキュラムにとらわれず、好奇心や探求心を大切にする環境を作りました。教室の形も当時の一般的な学校とは異なり、客車の教室を用いることで、子どもたちが型にはまらない方法で学べるように工夫されていました。これにより、自然な形で発達を促すことができたのです。
個性の尊重と自己肯定感の育成
小林宗作は、子どもたち一人ひとりが持つ個性や独自の考え方を大切にし、決して否定せず、肯定的に受け入れる姿勢を徹底しました。子どもたちが何かに失敗しても、それを否定するのではなく、温かく受け止めて可能性を引き出すよう努めました。このようにして育まれた自己肯定感は、のちに生徒たちの自信や自主性へとつながっていきました。
音楽とリズムを通じた感性教育
トモエ学園ではリトミックを通じて、音楽やリズムによる感性教育が行われました。音楽やダンス、リズムに体を合わせることで、感覚を研ぎ澄まし、心と体のバランスを整えることを重視しました。こうした音楽的活動は、子どもたちの表現力や協調性を育み、また感情を表現する力を養うものでもありました。


自然とのふれあいによる情操教育
自然を重要な教材と捉え、子どもたちがのびのびと自然の中で遊び、学ぶ機会を多く設けていました。小林宗作先生は自然とのふれあいを通じて、四季の変化や生命の営みを体感し、自然への愛情や尊敬の心を育むことが重要と考えていたのです。自然環境での活動は、知識ではなく「体験」から学ぶ機会を提供し、生命の尊さを学ぶ情操教育につながりました。
共生・協力の心を育む
トモエ学園では、子どもたちが互いに支え合い、協力しながら成長できる環境を整えました。集団での活動や共同作業を通じて、社会性や共感力を養うことが目指されました。他者との違いを受け入れ、自分の意見を持ちながらも他者と調和する大切さを学びました。
このような教育方針は、現在の教育理念にも多大な影響を与えています。個性を尊重し、自己肯定感を育み、自然や音楽と触れ合いながら情操を育む教育は、今なお「理想の教育」として多くの教育者に参考にされています。
リトミックを経験した子供に共通すること
リトミックを経験した子どもたちには、次のような共通する特徴やメリットが見られることが多いです。これは、音楽やリズムに合わせて身体を動かすことで、子どもの心身や知能の発達に良い影響をもたらすためです。
音楽的な感性やリズム感の向上
リトミックでは、音楽を体全体で感じ、リズムに合わせて動くことが重視されます。そのため、リトミックを経験した子どもたちは、音楽的な感性やリズム感が自然に育まれます。これにより、楽器の演奏やダンスなど、将来の音楽活動にも取り組みやすくなる傾向があります。
表現力や創造力が豊かになる
リトミックでは、音楽やリズムに合わせて自由に表現する活動が多く行われます。この経験を通じて、子どもたちは自分の感情や考えを身体で表現することに慣れ、表現力や創造力が豊かになります。こうした能力は、芸術や表現活動のほか、自己表現が必要なさまざまな場面で役立ちます。
自己表現や自己肯定感が高まる
リトミックでは、自由に動く時間が多く、自分の感情や考えを自発的に表現する機会が豊富です。そのため、自分の表現を肯定的に受け入れてもらうことで、自己肯定感が育まれます。また、自己表現を通じて「自分らしさ」に気づき、それを楽しむことができるようになるため、ポジティブな自己認識が生まれます。


集中力や反応力が高まる
リトミックは、音やリズムをよく聞き、瞬時に反応することが求められる活動です。そのため、リトミックを経験した子どもたちは、音に敏感に反応する力や、周囲の音や指示に集中する力が養われます。この集中力や反応力は、日常生活や学習においても役立ち、注意力の向上にもつながります。
リトミックを通じて得られるこうした経験やスキルは、幼少期の発達において非常に重要です。また、リトミックで培われた力は、音楽や運動の分野に限らず、さまざまな日常生活や学習面で役立つため、総合的な成長の基盤となります。
まとめ
「トモエ学園」が取り入れたリトミック教育。なぜリトミック教育を取り入れたかわかっていただけたことと思います。
「トモエ学園」とは
トモエ学園は、1920年代から1940年代にかけて東京にあった私立の幼稚園で、作家で教育者の小林宗作先生が設立しました。自由で個性を尊重する教育を重視し、音楽教育のリトミックや自然体験を取り入れるなど、型にはまらない独自の教育を行いました。著名な卒業生には黒柳徹子さんがいて、彼女の自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』には、トモエ学園でのユニークな学びの日々が描かれています。
「トモエ学園」が目指したもの
トモエ学園が目指したのは、子ども一人ひとりの個性を大切にし、自由でのびのびと学べる環境を提供することでした。小林宗作先生は、子どもたちが音楽や自然とのふれあいを通して感性や創造力を育み、自主性をもって成長することを重視しました。
リトミックを経験した子供に共通すること
リトミックを経験した子どもには、音楽やリズム感が自然に育まれ、表現力や創造力が豊かになる特徴があります。また、集中力や反応力、協調性が高まり、自由に動くことで自己肯定感も育まれやすくなります。


リトミック教育には多くの良さと、効果が詰まっています。「今、トモエ学園に通わせたい」と思っている親御さんがたくさんいるそうです。教育は、子どもの10年、20年先を見据えてするものであると思っています。